ノーベル文学賞 カズオ・イシグロの世界
こんにちは、今回は しなの がおすすめの一冊をご紹介します。
これから紹介するのは、小説ではなく、やや学術書のような感じです。
みなさん、先日ノーベル文学賞のニュースを聞いて、驚かれたのではないでしょうか?
そう、受賞したのは、日系イギリス人作家 カズオ・イシグロさんです。
これを読めばカズオ・イシグロがもっとわかる、という1冊をご紹介します!
「カズオ・イシグロ―”日本”と”イギリス”の間から」
作/荘中孝之 出版/2011年
本書の紹介に移る前に、カズオ・イシグロについて少し考えてみましょう。
なぜ彼は日本名を持つのに、イギリス人として称賛されているのでしょうか?
彼は、5歳まで長崎で生活し、その後は家族の仕事の都合でイギリスのロンドンに移り、そこで育ちました。
10月8日(日)にNHK Eテレで再放送された「カズオ・イシグロ 文学白熱教室」でも彼が話していましたが、いつかは日本に戻る、とずっと思いながら10代の頃は生活していたそうです。
しかし、イギリスの学校で教育を受けていたので、簡単な日本語は聞いてわかっても、ほとんど忘れてしまったために、会話はできないそうです。
それでも彼のノーベル賞受賞のニュースが日本でとても大きく報道されたのは、彼の心の中に幼いころの記憶として日本いつもあって、それが彼の作品にもたびたび登場するからです。
たとえば、彼が初めて書いた長編作品「遠い山なみの光」(1982年出版)は、被爆後の長崎で結婚した女性が主人公になっています。
のちに発表された短編小説「夕餉」(1990年出版)では、鎌倉の古い日本家屋に住む家族の何気ない会話が中心となって展開していきます。
彼は、心の中には日本があるけど、遠い昔の記憶になってしまったので、想像で日本を描く部分もあったようです。
そこで、こちらの一冊を読めば、イシグロについてより深く理解することができます。
実はこれまで、カズオ・イシグロについての研究があまりなされてきませんでした。その理由は、そもそも研究者の日本に対する理解に、限度があったからです。
日本人にとっても、人生の大部分をイギリスで生活した彼が描く日本に、疑問を感じる点があっただけに、研究する段階に至らなかったのです。
本書では、英文学を専攻とし、イギリスで学んだのちに准教授として教鞭をとっている著者が、「イシグロと日本」の関わりを、わかりやすく説明しています。
著者の解釈を通して、日本人のようで日本人ではないイシグロの第三者的な立場と、彼の特殊なアイデンティティのあり方について、より詳しく知ることができます。
彼の作品に共通する信念や、普遍的なテーマについても書かれているので、イシグロ作品を読んだことのない方でも、むしろ日本人なら誰でも、この本を読めば、彼の作品に隠された日本のあり方を垣間見ることができます。
また、イシグロ自身が読んだことのある、川端康成や谷崎潤一郎などの日本文学が、どのようにイシグロの作品に影響を与えたのか、について、いろんな可能性を考えながら説明されています。
こう説明すると、学術書の堅そうなイメージが伝わってしまったかもしれませんが、彼の作品が章ごとに1冊ずつ取り上げられているので、読み進めやすいです。
また、カズオ・イシグロについてもっと知りたい、という方のために、各章の最後に、文献のリストが丁寧に載っているので、研究される方には特に、役に立つと思います。
英文学を学んでいる方や、ノーベル賞受賞のニュースを機に、カズオ・イシグロってどんな人だろう?と思った方におすすめの一冊です!
ぜひ読んでみてください。
次回は...
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